はるうらら
季節が変わったからだろうか。
駅前の横断歩道を渡る男性。大きな音で携帯の着信音が鳴る。男は意に介さず歩く。
駅から出てきた人の話し声と一緒に、携帯の着信音は響く。車は通らない。頭の上で、電車が走り出す音。離れていく、着信音が、電車の音にかき消される。
少し、湿った空気。心地よい違和感が、肌に触れる。数年前までは望郷の念に駆られていた。桜は散った。桜前線はまもなく東北へ向かう。桜の咲く入学式にも慣れた。
月が綺麗に出ている。あたりは明るい。
季節が変わったからだろうか。得体の知れない感情が肌に触れては過ぎ去る。
優しさのような、懐かしさのような、悲しさのような、痛み。心地よさでもあって、目を瞑り、息を吸い込み、触れては去るその感情に浸る。
忙しい仕事もある。
また明日、早く起きて、仕事へ向かう。